東京高等裁判所 昭和30年(う)2968号 判決
被告人 落合清
〔抄 録〕
弁護人の控訴趣意中の論旨第一点について。
原判決が、罪となるべき事実第二において上野良雄から被告人に授受されたとしている現金一万五千円の金銭は、単に原判示候補者に当選を得しめるための被告人以外の選挙運動者に対する原判示買収費としてのみ授受されたのではなく、被告人の過去及び将来における同候補者のための投票取りまとめの選挙運動に対する報酬をも含め、特にそれとこれとを区別することなく一括授受されたものであるという趣旨のものであるから、これが趣旨にかかるものであることの事実にして認められ得るもののある以上、たとえ、上野良雄と被告人との関係が、たまたま当時原判示候補者の選挙運動における幹部同志であつたとするも、事柄の性質上、明らかに被告人は上野良雄から右金銭の供与を受けたものというを相当とし、右授受行為をもつて、供与行為の共謀者間における供与資金の単なる授受行為にすぎないものであるというを得ない。而して、右金銭授受の趣旨等原判示第二の事実は、原判決挙示の証拠によつてこれを認めることができ、記録を精査するも、原判決には、これが事実の認定について、判決に影響を及ぼすことの明らかな誤認はなく、原審が、これが認定にかかる金銭の授受行為につき公職選挙法第二百二十一条第一項第四号所定の罪に問うたことは正当である。従つてまた、右授受行為をもつて供与行為の共謀者間における供与資金の単なる授受行為であるという趣旨の前提に立つて、原審が、原判示第一の事実につき起訴状記載の事実では上野良雄と被告人の共謀とあるにかかわらず、敢て被告人単独の所為として認定したことを非難する所論は採用するに由がない。しかしながら、なるほど原判決挙示の証拠によるときは、同判示金銭の授受は上野良雄と被告人との共謀にかかるものであることが窺がい得られこの点において原判決は事実誤認の過誤を冒したものというのほかはないが、それかといつて、原審が、敢て、被告人単独の所為であるものの如く認定したことをもつて、敢て判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認の過誤を冒したものということはできない。
なるほど、原審記録、及び当審事実取調の結果(殊に当審証人松山幸徳及び同蓬田清一の各証言)によるときは、被告人の所為にかかる原判示第一の現金弐千円の授受は、選挙運動者である蓬田清一の依頼を受け、上野良雄からの出金を得た上、右蓬田清一の依頼の趣旨に従がい、同人に対し、他の選挙運動者(松山幸徳)が候補者稲見貞止に対する投票獲得のためにした選挙運動の費用及びその報酬として同人に供与する行為をさせる目的で為されたものであることが推認されるので、その所為は、正に公職選挙法第二百二十一条第一項第五号所定の金銭交付の罪に該当するものというべく、従つて、原審が蓬田清一に対し、同人の過去及び将来における同候補者のための投票取りまとめの選挙運動に対する報酬として現金弐千円の供与申込を為した旨認定して、同条第一項第三号所定の罪に問うたことは、明らかに事実誤認ひいては法令適用の誤を冒したものというほかはないわけであるが、右金銭交付の罪と金銭供与の申込の罪とは、いずれも法定刑を同じくする同一罰条所定の買収犯罪に属し、ただ、その態様を異にするというにすぎないから、原審が、基本的には事実を同じくする本件買収行為についてした以上の瑕疵は、未だもつて原判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認ひいては法令適用の誤を冒したものとは言い難い。
(三宅 河原 遠藤)